ジャーナリストの伊藤詩織さんが問うたのは、日本社会そのものだった。
なぜ性暴力の被害者の大半がなかなか訴え出ることができず、沈黙の涙を流し続けるのか。勇気を振り絞って告発した女性が、二次被害に苦しむのか。そして、なぜ加害者の多くが責任を問われることがないのか。(共同通信=田村文)
元TBS記者の山口敬之氏による性暴力被害を訴えた民事訴訟で、伊藤さんが勝訴した。山口氏が名誉毀損などを理由に伊藤さんに巨額の賠償を求めた反訴は、退けられた。東京地裁は伊藤さんが記者会見や著書で被害を訴えたことについて「公表内容は真実」「性犯罪の被害者を取り巻く法的、社会的状況を改善しようとしたもので、公共性および公益目的がある」と判断した。
■客観的、構造的に捉える
この事件について記した伊藤さんの著書『Black Box』が出版された2017年10月、私は伊藤さんにインタビューした。
そのとき彼女は、なぜこんなことが起きたのか、客観的に冷静に振り返った。心に大きな傷を負っているにもかかわらず、自分自身をも突き放して、問題を捉えようとしていた。「この人は被害当事者であると同時に、優れたジャーナリストなんだ」。そう思った。だからこそ、数々の葛藤を乗り越えて、一冊の本を書き上げることができたのだ。平明な文体で書かれた著書からも、そのことがうかがわれた。
くしくも判決の日、伊藤さんは「Yahoo!ニュース個人」のドキュメンタリー年間最優秀賞を受け、2年前の確信が証明された形になった。
彼女がインタビューで語ったのは、性暴力に関わる社会や組織、個人の重層的かつ構造的な問題だった。
被害のショックと混乱の中で最初に駆け込んだ産婦人科の病院では、何も聞いてくれなかった。「どうしましたか?」という一言があったら、その後の展開はまったく別のものになっていたのではないか。「緊急で」と言って避妊用のピルをもらっているのに、医師はレイプの可能性を考えていないし、レイプキット(証拠採取用の道具一式)もない。
準強姦容疑で被害届を出す。男性捜査員が居並ぶ警察署内の道場で再現させられる。何度も「処女か」と聴かれる。「医療関係者や捜査機関の人への教育が急務です」
加害者に甘い刑法、性暴力の問題に及び腰なメディア、被害者側の「落ち度」をあげつらい、中傷する人々…。
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース